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西京高校実践事例

LESSON1 人生は選択の連続だ! 実践

「選択するということ」は、「他の何かを犠牲にするということ」だった。

1.基本情報

実施:2010/04 ,2011/04 総合的な学習の時間「エンタープライズⅠA」高校1年約40名
2010に3回、2011に3回、計6回実施(50分×2連続授業)

エンタープライズⅠA(総合的な学習の時間)(前期1単位(2時間連続授業))の授業枠で実施。自分と社会との関わりを考え、自ら確固とした意思決定ができること。グローバルな視点から創造的な提案ができる素養を身につけることを目標とした本校の専門科目。高校入学後、前期第1回目の授業で実施。

2.授業のねらい

普段の何気ない生活の中での無意識の意思決定を、あらためて考えてみる。コース選択や学部・学科選択、時間の使い方、お金の使い方などあらゆる意思決定(稀少性と選択)にオポチュニティコストがかかっていることを理解する。

3-1.授業の流れ・内容のハイライト・(50分)

導入

「人生は選択の連続だ!」というタイトルから考えられる「自分自身で考えられる今までの「選択」について思いつくものを教えてください。」と生徒に尋ねる。高校の選択、教科選択、文理のコース選択・携帯電話、携帯音楽プレイヤー購入時の「選択」などいくつか出てきた。

問題提示
生徒の選択例を受け、「さてこんな場合の選択があったらみんなはどうするかな。」ということで生徒にアクティビティシート1を配布し、ナレーションを読み上げる。
もう少しで希望大学の推薦入試を受けるということ。大好きな歌手またはグループの引退コンサートのプレミアムチケットを手に入れたこと。自分の大好きな人から映画に誘われたこと。を具体例を出し説明。「できるだけ自分の状況に置き換えて考えてください。」と指示。
5分間、生徒たちに3つの選択肢のメリット・デメリット、優先順位を考えさせ、シートに記入させる。
自分の状況に置き換えて考える際、生徒からいくつか質問が出た。

Q「大事な試験を控えているとあるが、いつあるのか?」
→A「3日後と考えて。」

Q「憧れの人はどれくらいの憧れか?」
→A「大好きで大好きでいつも思っている人と考えて。」

意見を聞く

5分後生徒の発表(選択した順位と理由)をホワイトボードに書き上げる。
その後、それぞれの選択肢を選んだ際のメリット・デメリットを発表したものをホワイトボードに書き上げる。

生徒たちは、お互いの意見を出し合うなかで、「なるほど、そんな意見もあるのか」「自分とは違うなー」「自分といっしょだ」と感じているようである。途中で「どの答えが唯一の正解だなんてことはないんだよ。」とアドバイスしながら、他の意見を聞きだす。だんだん意見が出される中で、また、メリット・デメリットを書き出すうちにそれぞれの選択肢の中に各自が考えるメリット・デメリットがあるんだということに気づいていく。また人の発表を聞くうちに、選択した時のデメリットにも注目しなくてはならないことにも生徒は徐々に気づいていく。

教員からの話

「たった3つの選択肢でもいろんな順位があるし、考えられるメリット・デメリットも人それぞれ違うことがわかるね。また、あきらめたほうのメリットが犠牲になっていることがわかるね。」といった話をする。

意見をさらに聞き、板書する。

「同じ優先順位だった人でも、違う理由だった人がいるかもしれないので、違う理由のある人は発表してください。」と発問し、追加意見を書き出す。

意見をさらに聞く。

「今までの発表を聞くなかで、自分が初めにつけた優先順位が変わった人はいますか。」
数人の手が挙がり、意見を聞く。ここで2つを同時に実現させる意見(映画を見た後で一緒に勉強する)が出てくるクラスもあった。

最後のまとめとして教員からの話

意思決定をするうえで、いつもあらかじめ一つの解が決まっているということではないということ。他の人の意見を聞くことで、いろんな考え方があり、いろんな視点からとらえることが大事だということ。日常生活のなかでもよく複数の選択肢の中からひとつ選ばなくてはいけない状況があるということ。選択するということは、実は選択しなかったほうのメリットが犠牲になっているということ。
安易に結論を出さずに、他の選択肢はないのか、メリット・デメリットは何なのか、自分自身でしっかり考えてほしいこと。意思決定には結果と責任を伴うということなど。

(10分間の休憩)

3-2授業の流れ・内容のハイライト・(50分)

導入

以前担任をした本校卒業生K君がO大学とW大学の2つの大学に合格しどちらの大学に進学するかで悩んでいた時の事例(ぜいたくな話だが)でメリット・デメリットを考えて進学先を決定した事例を説明したのち、オプションの「自転車」選択の事例のPACED意思決定プロセスを配布。「今、みんなは新しい自転車を買おうとしています。ここにある5台の自転車から選び、今日どうしてもこの購入しなければならない状況です。」と告げる。

ビジュアルシートで「Pそもそも自分は何で悩んでいるのか」から「D意思決定」までのプロセスの確認。

Problem(解決すべきことは何か?自分は何で悩んでいるのか?)「新しい自転車に買い換えること。」
Alternative(どんな選択肢があるのか?)「タイプa ~タイプe」
Criteria(選択の基準)「自転車タイプ」「価格」「収納」「変速機」「色」
Evaluation(評価)
Decision(決定)
と説明を加えながら、一緒に作業を進める。

個別作業・意見を聞く

C(選択の基準)までできた段階で何人かの生徒にどんなふうに決めたか聞きながら進める。
生徒たちは、正解が1つでないことを分かっているので気軽に発表し始める。ここでは「C 選択の基準」は5つあらかじめ示したが、本来この基準自体も自分自身で考えるものだと説明。

個別作業・意見を聞く

次にC(評価の基準)でつけた数値をカッコ内に記入し、タイプa~タイプeのそれぞれの自転車に得点をつけさせた。ただし「E評価」の得点は1~でなく、0~とした。

意見を聞く

最後に決定した自転車タイプとその理由を聞く。唯一の正解の自転車タイプがあるわけではないということを言い、発表しやすいムードを作る。

最後のまとめとしての教員からの話

こういった1つの方法があることを覚えておき、迷った時、選択に困ったとき、どんな選択肢があり、自分の基準は何か。を考えて決定していくことで合理的な意思決定ができること。(あくまでも1つの手段としてこういうツールがあるということにとどめておく。)

「大事なものを、失ったことさえ気がつかない怖いお話」を配布。

最後に10分ほどで「本日の授業の要約と感想」を400字程度でまとめ、提出する。

4.生徒の反応(感想文含む)

  • 生徒たちは、他の生徒の発表を聞くうちに、「そんな考え方もあったな。」とか「自分はちょっと違う考え方をした。」といった思いをもち、だんだん発表が活発になっていくようであった。
  • ホワイトボードに書き出されていく選択肢の順位やそれぞれのメリット・デメリットをみていく中で、自然に、「意思決定すること」は「あきらめた方のメリットを捨てているんだ」ということが分かってくるようであった。
  • 意思決定を自らすることはとても重要な行為で後の自分の人生を左右する選択になるかもしれないので、慎重にメリット・デメリットを考えてする必要があるのだとわかった。
  • 私は意思決定をするのが難しいと思った時、親に頼ってしまうことがある。それは自分で選択するという可能性を広げるための行為に、自分の意志が反映していないことになる。自分で選択肢を増やす工夫やいろんな見方をして最良の選択をしなければと思いました。

5.実施してみての総括

  • 考え方はいろいろあっていいんだということが前提にあるので、生徒たちは気楽に発表をするように感じたまた、生徒たちはお互いの発表を聞きながら、徐々に自分の意見も聞いてほしいというムードになっていくようである。
  • PACED意思決定は、あくまでも手段であり、こんなやりかたもあるということにとどめておき、選択する行為にはあきらめた方のメリット(オポチュニティコスト)がかかっていることを強調。
  • これから校内でもクラブ登録やコース選択などの意思決定がありますが、意思決定には結果と責任を伴う(他人のせいにはできないよ)というまとめを行った。

板書事項

  • 稀少性と選択
  • オポチュニティコスト
  • 意思決定→結果→責任

報告者:京都市立西京高等学校・附属中学校磯部研二

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LESSON3 小麦の売買、価格はどう決まるか? 実践

「市場価格は一人ひとりのみんなの意志で決まるんだ!」

1.基本情報

実施:2010/04, 2011/04総合的な学習の時間「エンタープライズⅠA」高校1年約40名 2010に3回、2011に3回、計6回実施(50分×2連続授業)

2.授業のねらい

市場が需要と供給の関係でどのように動き、どのように市場価格が形成されるかを体感しながら、理解する。また、人はインセンティブに基づいて、それぞれが行動し、その中でつながりあって経済活動が行われていることを理解する。

3.授業の流れ・内容のハイライト(50分×2連続)

導入

「今日は、売り手と買い手に分かれて市場で小麦の売買を行います。」「買い手はできるだけ安く買いたい気持ちがあるよね」「売り手はできるだけ高く売りたい気持ちがあるよね」の説明の後、3人(記録係・売り買い各配布回収係)ボランティアで募集。
アクティビティシート3を配布し、取引のやりかたを説明し、3人の係を抜き、名簿番号前半を買い手、名簿番号後半を売り手と半数ずつになるように分け、アクティビティシート4を配布。記録係には大型ディスプレイで取引の途中経過を映すよう指示。

第1ラウンド(練習ラウンド)(5分間)

各配布・回収係が買い手に買い注文カード1枚、売り手には売り注文カードを1枚ずつ配布。様子を見ながら取引が始まる。どうしていいかわからない生徒、恥ずかしがって積極的に参加できない生徒もいて、取引はあまり活発ではないが、あえてアドバイスはしない。
5分終了後、今のは練習ラウンドで、次の第2、第3ラウンドが本番であることを告げる。

第2ラウンド(5分間)

要領もわかり、競争心理が自然に働き、第1ラウンドより取引回数が増え、全員教室内を動きまわり、取引が活発化した。

5分間の取引終了後、意見を聞く

「一番利益を上げたのは誰かな?500円以上の人はいるかな?」と一定の金額ごとに挙手させる。最大利益をあげた人を確認し、拍手で祝福。
「なぜ、最大利益をあげられたのかな?」の質問に対して「運が良かった(いいカードを引いた)」や、「交渉がうまかった」などの意見。クラスによっては「何回も取引した。」「取引回数が多い。」といった意見が出るクラスもある。もし出なければ、利益の多かった人に取引回数を聞く。
「最終的に利益を確保できたが、途中では損をして取引した生徒がいるか」と挙手させる。

何人か手が挙がる。取引回数に注目させ、途中で損失を出したが最終的に利益を確保した生徒も出てくる。
ここで途中の取引の全てで利益を出さなくてもいいことがわかる。
「自分のカードの価格を他の人に見せてもいいでしょうか?」
「この人にこれ以上交渉しても無駄だという価格がわかって交渉力を失ってしまいますよね。」
「取引ラウンド中に記録係が大型ディスプレイに映していた取引成立価格を見た人はいますか?」
数人が手を挙げる。「見た人は何の役に立った?」などの発問。

第3ラウンド(5分間)

お互いに出し合った意見のおかげで、要領がわかった生徒が増え、ますます取引は活性化する。(取引回数は最大になった)

5分間の取引終了後、意見を聞く

「各ラウンド取引回数が一番多かったのはどの価格?」「500円の時」「600円の時」などの答え「これを市場価格(均衡価格)って言います。購入意志のある買い手と販売意志のある売り手の数が同数の場合の価格ですよね。」

「価格が最も広く分布したのはどのラウンド?」「後のラウンドになるほど価格分布のばらつきが小さくなったよね。なぜこうなったんだろう?」といったやりとりから、生徒たちは経験や大型ディスプレイに映し出される取引の途中経過から「情報」を共有できるようになったことに気づいていく。

(10分間休憩)

次の50分を使い、オプションの需要曲線・供給曲線を書き、均衡価格や超過需要、超過供給について考える時間にあてた。(実質30分ほど)

最後のまとめとしての教員からの話

「私たちの日常生活は意思決定(選択)の連続です。買い手は予算と欲しいものの価格を比べて、最大の満足が得られるよう買値を意思決定しています。売り手は生産コストと販売価格を見比べて最大の利益が得られるよう売値を意思決定しています。そして、買い手も売り手も価格をシグナルとして行動していますよね。
こういった合理的に意思決定する売り手と買い手が出会う場が市場です。市場価格(均衡価格)では品不足も売れ残りも生じない状態で、そういう意味で、資源が最適に配分されている状態だと言えるよね。ただし、均衡価格が成立するには、買い手、売り手とも多数いて自由に競争できる環境でなければだめですよね。」といったまとめ。
授業の前日の日経新聞記事4月22日朝刊(『大手ホテル大幅値下げで需要喚起』)を使い、実際の状況を説明。

4.生徒の反応(感想文より)

  • はじめは恥ずかしくてあまりできなかったけど、やり方がわかってきて取引回数を増やした結果、利益を上げられた。だんだん楽しくなってきた。
  • 中学でも需要と供給については習ったけど、自分たちで動いてやると均衡価格(市場価格)の意味がよくわかった。

5.実施してみての総括

  • 「小麦の価格を決定したのは買い手か売り手か」の質問には意見が割れて興味深かった。お店で売られているものが、初めから値段が決まっているから、売り手だと感じている生徒もいたようである。
  • 最初におこなったクラスでは、取引交渉の際、50円単位でやり始める生徒も出てきてしまい、100円単位で行うことを先に確認しておかなければならない。
  • 初回授業は注文カードを段ボールの厚紙に張り付けて使用したが、取引時に売り手なのか買い手なのかがはっきりわかるよう、買い注文カードは青色に、売り注文カードは黄色に色分けした。また、1年生全クラスで使用することを考えパウチ加工した。(写真上)

板書事項

  • 意思決定(選択)
  • 市場
    需要(買い手)供給(売り手)
  • 超過需要
    需要>供給・・・品不足→価格上昇
  • 超過供給
    需要<供給・・・商品過剰→価格下落

残りの20分は、次回3回目の授業で「MESE意思決定シミュレーション」(ジュニア・アチーブメント)を行うための準備(グループ分け、会社名を決める)作業にあてた。

※テキスト修正箇所あり
P23→600円
生徒に自分のスコアシートとクラス記録シートを調べさせます。この価格(およそ6ドルであるはずです)が・・

報告者:京都市立西京高等学校・附属中学校磯部研二

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LESSON6 この海の魚は私のもの!? 実践

「あっという間に魚は一匹もいなくなった!」

1.基本情報

実施:2010/06, 2011/06エンタープライズⅡB(「政治・経済」の政治分野)(前期1単位)
高校2年24名~26名2010年に2講座、2011年に1講座計3回実施(50分授業)

2.授業のねらい

「自由権」の中の「経済の自由」、特に、日本国憲法で保障している「財産権」の保障とは何かを理解する。
また、私的所有権が経済活動にもたらす効果を体験的に理解する。

3.授業の流れ・内容のハイライト(50分)

導入

「今日は、何人かの人に漁師になってもらい、漁をしてもらいます。見ている人たちは、この漁師たちがどんな行動をとるかしっかり観察しておいてください。」といった説明から授業開始。

アクティビティ

  • 教室の中央を空け、模造紙を広げた。「ここが漁場になります。漁師を体験したい人は手を上げてください」と募集。クラスにより5人~9人の手が挙がったので適当に調整。参加生徒は男子が多かったが、女子も2、3人は参加。報酬は飴を用意した。
  • 漁を第1ラウンドも第2ラウンドも2回行うことを告知。「1回目は魚1匹につき報酬として飴1個、2回目の漁では魚1匹につき報酬として飴2個渡します。漁師は頑張って漁に励んでください。見ている人たちは漁師たちの行動をよーく観察してください。」「漁師たちはお互いに話をしないように。」と説明し、漁師たちを漁場の周りに立たせる。
  • 生徒の質問「魚は全部で何匹いるの?」(もしあらかじ魚の数がわかっていたら魚の数を人数で割って、2回目の漁まで待ち、全員で公平に分ける意図か。)に対して、「大海に泳いでいる魚だから、何匹いるかはわかりません。と答える。

第1ラウンド 1回目の漁(30秒間)

「漁師の人たちは準備いいですか?それでは1回目の漁を30秒間始めます。」の合図と同時に、1人の生徒が獲りだした瞬間、競い合いになる。30秒たたずにあっという間に魚を獲りつくしたのでその時点で漁を終了させる。漁師役の生徒に約束通り、1匹につき1個ずつ飴をわたす。
漁師役の生徒数人にインタビュー「2回目まで待ったら、1匹につき報酬は飴2個もらえたのにどうして、待てなかったの?」の質問に「でも、○○さんが獲り始めて、○○君も獲り始めて、全部とられそうだったから。」といった答え。

第2ラウンド 1回目の漁(30秒間)

模造紙にマジックで扇状に境界線を記入する。その後、魚カードを適当に置く。何匹かは境界線上にわざと置く。「第2ラウンドでは漁師は各自割り当てられた区画の魚だけ獲ることができます。」の確認をしたのち、30秒間の漁を開始。漁師役の生徒全員が、2回目の漁まで待つ決断をし、1匹も獲らない。

2回目の漁(30秒間)

区画上の魚をどうするかという判断はクラスによってさまざま。あるクラスでは、自分の漁場にも少し入っているので自分のものだと判断し、獲り合いになるケース。また、あるクラスでは、2匹が境目にあるので、アイコンタクトで1匹ずつ分け合うケース。少なそうな人の方に勝手に動かすケースなどさまざまなケースが見られた。
数人の漁師役の生徒に質問。「第2ラウンドでは、2回目の漁まで待てたのはなぜかな?」「自分の漁場ははっきりして、他の人に獲られないから。」などの答え。?「区画の境にある魚はどうしたのかな?」の質問に対しては、クラスにより、さまざまな答え。「お互いに相談して決めた。」「2匹、境にいたので1匹ずつ分けた。」「少し自分の漁場にかかっているのだから早いもん順だと考えた。」など非常に興味深かった。

最後のまとめとしての教員からの話

「第1ラウンドも第2ラウンドも、魚が大きく育つのを待ち、より大きな報酬がもらえる2回目の漁まで待った方がいいのに、私的所有権が認められていない第1ラウンドでは、他の漁師に獲られてしまうという気持ちから、1回目の漁で獲り合いが起こりました。でも、第2ラウンドでは、私的所有権を設定したので、2回目の漁まで待つことができましたよね。区画の境の魚については、いろいろな行動をとる漁師がいましたが、こういったグレーゾーンの調整役は政府や地方公共団体の役割となるよね。」と説明。
ウクライナの高校生の事例紹介(第2ラウンドでも1回目の漁で魚の獲り合いが始まったケース)

4.生徒の反応(感想含む)

  • 漁師役の生徒だけでなく、見ている生徒たちも目を輝かせていることに驚き、漁に参加しない生徒たちにとっても非常にも楽しめる教材であることを実感した。
  • 財産権を設定することの意味がわかった。
  • 楽しかった。(漁師役の生徒)・漁師の魚の獲り合いは見てて面白かった。(見ている生徒)
  • ぼくたちのクラスでは境界線の魚の獲り合いにならず、話し合いで解決したのですごいと思った。

5.実施してみての総括

  • 1回目の授業では、床をそのまま漁場として設定し、床にガムテープを#に貼り、9つの区画を作ったが、強力ガムテープを使用したため、床のタイルが剥がれ、生徒たちと直すのに一苦労した。模造紙を使う方がよい。漁場もマジックで区画を引くので、漁師の人数も6人~10人くらいで調整できる。
  • 魚はよりリアルにするため、2回目からは、両面とも魚に見えるよう印刷した。
  • クラスによっては、第1ラウンド1回目の漁があまりにもエキサイティングで、模造紙が破れてしまったケースもあり、模造紙は初めに2枚用意しておいた方がよい。
  • ただ楽しかった。盛り上がったな。だけに終わらないよう、途中途中で生徒の発言を取り上げながら、実際こんなケースが起こったらどうするかな。と補足しながら進めること、最後のまとめ方や途中、生徒の出す意見をどのように取り上げていくかが非常に重要であると感じた。

板書事項

  • インセンティブ
  • 資本主義・・私有財産制度(財産権設定)
    社会主義・・財産権設定なし
  • 市場経済における政府の役割

報告者:京都市立西京高等学校・附属中学校磯部研二

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LESSON7 モノの値段が上がっていく! 実践

「教室でハイパーインフレが起こった!」

1.基本情報

実施:2010/07, 2011/072011/10 エンタープライズⅠB(「政治・経済」の経済分野)(前期1単位)
高校1年約40名2010年に2講座、2011年に2講座計4回実施(50分授業)
「金融のしくと働き」の単元の導入部分で活用

2.授業のねらい

物価変動のメカニズムを体験的に理解する。マネーストックが変化することで、市場動向に影響を及ぼすことを体感する。また、日本銀行(中央銀行)が物価の変動や市場動向をコントロールするために、マネーストックを管理する責任があることを理解する。

3.授業の流れ・内容のハイライト(50分)

導入

「今日の授業ではオークションを行います。オークションって知ってるよね。自分の欲しいものが出てきたらそれぞれ値段を言って、より高い値段をつけた人が競り落とせる競売のことです。今回オークションにかけるものは袋入りのキャンディ、ポケットティッシュ、袋入りのキャラメルの3つです。」と説明し、生徒に3点×2セットを見せる。
「オークションに参加したい人は挙手してください。」と聞くと、「えっ、本当にもらえるの?」とざわついた瞬間に10人以上手が挙がるクラスや、4、5人が手を挙げ様子を見ながら徐々に増えていくクラスなど反応はいろいろ。

オークションの説明と準備

小さいクリップを10個程度ずつ、オークション参加者に配布し、これが1個100円とすることとし、受け取った金額をメモしておくことを指示する。この金額が参加者一人ひとりの財布の中身だと強調する。再度、オークションのルール(最も高い値をつけた人に競り落とされる)を確認する。
参加していない生徒は、オークション参加者がどんな行動をとるかしっかり観察しておくよう指示。

アクティビティ
第1ラウンド(小クリップ使用)

最初の商品(袋入りキャンディ)をオークションにかける。競り落とした生徒から代金として小クリップを受け取り、ホワイトボードに売値を記録。2つ目(ポケットティッシュ)、3つ目(袋入りキャラメル)のオークションを行い、同様に代金受け取りと売値記録。徐々に声も大きくなり、盛り上がりを見せる。

第2ラウンド(大クリップ使用)

オークション第2ラウンド用の大クリップを1人10個程度ずつ、参加生徒全員に配布し、これは1個500円に相当すると説明。この時、クラスによっては生徒から先に「前の小クリップも使えるの?」と質問が出る時もあり、こちらから先に説明する場合もあった。参加者には小クリップと大クリップ合わせて、現在の財布の中身がいくらかをそれぞれメモをとらせる。

第1ラウンドと同様に、3つの商品を順番にオークションにかけていくが、第1ラウンドの金額の下に第2ラウンドの金額を板書していくと「うわー。すごい。」の声や笑い声で盛り上がり、それにつられて、オークション参加者は競争心をあおられ、どんどん値を吊り上げていくようであった。

オークション終了後、意見を聞く

第1ラウンド、第2ラウンドとも同じ商品がオークションにかけられたにもかかわらず、なぜ第2ラウンドの落札価格がこんなに高くなったのか、ホワイトボードに記録した金額を示しながら数人の生徒に聞く。「使えるお金がたくさんあったから。」といった答えが多く返ってきた。

あるクラスのオークション結果

  ミルキー ティッシュ キャラメル
第1ラウンド 800円 200円 1,200円
第2ラウンド 6,300円 5,500円 25,000円

教員からの話

数人の生徒に第1ラウンドの時の財布の中身と賽2ラウンドの時の財布の中身を聞き、売値の横に書き出し、財布の中身の増加と商品の値段の上昇が関連していることに注目させ、説明を加える。
第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレ時「子どもが札束で遊んでいる写真」「大人がリヤカーで紙幣を運ぶ写真」を見せ、何をしている写真か質問。実際の世の中でもこんなお金が出回り、ハイパーインフレが起こりうるんだという説明。

アクション

5人のバランティアを募り、教室の前に来てもらい、それぞれにM, V, =, P, Qのカードを1枚ずつ渡す。
1列に並んで他の生徒に見えるように、MV=PQの方程式の順番になるよう立たせる。見ている生徒にはメモを取りながら考えるよう指示。
教員の説明とボランティアの生徒とのやり取りから、マネーストックとインフレーションの関係を理解させる。

意見を聞きながら、カードを上下させる。

「マネーストック(M)が増大し、通貨の流通速度(V)と商品の生産量(Q)が変わらなければどうなるかな?」
→物価水準(P)のカードをあげる。

「今オークションでシミュレーションしたけど、マネーストックと物価水準との間には大きな関係があります。」と補足説明。

「日銀(中央銀行)の重要な仕事の一つにマネーストックをコントロールすることがあります。もし、物価水準(P)が上がったインフレの時には、日銀は物価をさげるためにどうすべきでしょうか?」とマネーストック(M)のカードを持った生徒に聞く。
→Mのカードを下げる。

4.生徒の反応(感想文より)

  • 手持ちのお金が増えると物価はこんなに上がるものだとびっくりした。まさにハイパーインフレだ。実際こんなことが起こると知ってびっくり。こんなになったら年金暮らしの人は困るだろうなと思った。
  • 通貨供給量を増やすと物価は跳ね上がるということがよくわかった。教科書で勉強しているだけでは理解しきれていなかった通貨供給量と物価との関係、インフレーションの意味が実感できた。やはり、財布に余裕があると気持にも余裕ができて少し高くても買ってやろうという気になるんだとわかった。また、バブル経済のようなことにもなりかねないと思った。
  • 説明を聞くだけより、実際にした方がわかりやすかった。理解がさらに深くなった。
  • 親がよくネットオークションをやっているので、この仕組みはとても身近に感じることができた。そして今回のオークションの実験はそれがわかりやすく見られた。
  • オークションがわかりやすくて、マネーストックの上昇とともに物価水準が上がることもわかりました。(見ていて)面白かったです。
  • 私たちは経験してないけど、バブルの時ってきっと世の中全てがこんな感じやったんやろうなと思いました。
  • たぶん50分前はMV=PQはまったく理解できなかったけど、今ならすっと理解できた。オークションの盛り上がりは見ていてすごくおもしろかった。
  • マネーストックが上がると物価が上がると体験的に分かった。MV=PQという見かけは難しい式を分かりやすく理解できた。マネーストックは経済の安定をはかるため大切な働きをしていることがよくわかった。

5.実施してみての総括

  • 第2ラウンドになると、競争心理がはたらき、一段と盛り上がりを見せた。見ている生徒たちも目の色が変わってくるのがわかった。
  • 第1ラウンドと第2ラウンドでの売値比較が視覚的にできるように、それぞれの商品と売値を板書するのはよい。
  • 2回目の授業では、最初の5分でプレテスト「日銀の金融政策について知っていることを述べよ。」最後の5分でポストテストで書かせてみた。
  • 第2ラウンド2つ目の競売から、自然発生的にグループをつくりだすクラスもあった。「グループを組んでよいかどうか」質問してくる生徒もいれば、勝手にグループをくみ出す場合など様々なケースが起こった。その結果、価格はますます競りあがり、盛り上がりを見せた。
  • 交換の方程式(MV=PQ)を板書するのではなく、生徒を使って視覚的に説明させるやりかたは、他のレッスンでも効果的に使えると感じた。

報告者:京都市立西京高等学校・附属中学校磯部研二

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LESSON8 景気変動、打つべき手は? 実践

「みんな、つながっているんだ!」

1.基本情報

実施:2010/08, 2011/082011/10 エンタープライズⅠB(「政治・経済」の経済分野)(前期1単位)
高校1年約40名2010年に2講座、2011年に2講座計4回実施(50分授業)
「財政の役割と財政政策」の単元で活用

2.授業のねらい

2つの劇を演じることによって、政府の景気対策にはどのようなものがあり、どんな考えに基づいてそれが行われているのかを体験的に理解する。また、その財政政策が私たちの生活に及ぼす影響についても理解を深める。

3.授業の流れ・内容のハイライト(50分)

導入

「文化祭も近づいてきたけど、2年生になったらクラスで40分間の演劇をやることになるんだけど、今日は皆さんに俳優になってもらい、劇をやってもらいます。」と伝えた後で、アクティビティシート(第1幕と第2幕を両面刷りしたもの)を全員に配布する。クラスによってはプレテスト・ポストテスト「政府の財政政策について知っていることを述べよ」を最初の5分最後の5分を使い実施。この時は第1幕1グループ、第2幕1グループの発表とした。

アクティビティ

第1幕を演じるグループ2チーム、第2幕を演じるグループ2チーム、審査員をするグループ1チームをつくり、アクティビティシートのシナリオを参考にして役割分担をしたあと、台詞を考える時間を5分間与えた。作業が早く進んだチームは、相談しながら台詞の読み合わせまでしていた。劇が始まったら、しっかりと演じている役者に注目し、自分たちの劇の参考にするよう指示。一生懸命、役になりきって演ずる生徒たちや、アドリブで笑いを誘う生徒も出てきた。
(時間の関係上、クラスによっては演じるのは1チームずつにしたこともあり。)

教員からの話

第1幕が終わると、生徒たちをその場に残し、インタビュー形式で拡張的財政政策のまとめをする。板書はせずに生徒とのやり取りの中から、サプライサイドの経済学の話や、主婦が減税で還付された現金を全部貯蓄に回したとしたらどうなるだろう。といった話を織り混ぜながらまとめる。

第2幕が終わった後も同様に生徒たちをその場に残し、インタビュー形式で緊縮的財政政策のまとめをする。

意見を聞く

第1幕「減税」が行われることで、それぞれの登場人物の生活にどのような変化が起こりましたか。
→収入が増え、消費も増えた。みんな幸せになった。お金の流れが大きくなった。 など

第2幕「財政支出の削減」が行われることで、それぞれの登場人物の生活にどのような変化が起こりましたか。
→物価が下がった。収入が減ってかわいそう。収入が減って消費も減っていった。失業者の増加、消費意欲が下がるなど。

審査員から評価基準と優秀賞の発表・表彰

景品として、自動車会社の販促グッズや絵葉書を渡したクラスもあり。クラスによっては、審査員は設けず、教員の判断で優秀賞発表・表彰

最後のまとめとしての教員からの話

  • 意見を聞き板書してまとめると、どうしても、第1幕拡張的財政政策=善、第2幕緊縮的財政政策=悪と、間違って解釈しそうな生徒も出そうなので、「景気が過熱しすぎインフレーションになること」も非常に怖いことだし、「景気が悪すぎてお金の動きが悪すぎることやデフレーションになることも非常に怖いことなんだ」ということを強調。
  • 演劇がすべて終了したのち、ビジュアルシート1・2をプロジェクタで映し、解説。特に人と人とのつながりが経済を動かしているのだということを強調。
  • ポリシーミックスについては、前回の授業で行ったオークションのレッスンを振り返りながら行った。

4.生徒の反応(感想文より)

  • 一見、増税や財政支出削減することは国民にとってよくないことのように思えるが、景気のコントロールのために政府も考えてやっているんだということがわかった。
  • すべての経済の動きはつながっているんだなーと思いました。
  • 劇を見ていると、第1幕では収入が増えて、お金を使うようになった様子やどんどんお金が回ってくことがよくわかった。
  • 具体例だったのでわかりやすかった。劇がおもしろかった。またやりたいです。
  • EPⅠBを勉強した時に財政政策は有効需要を調整することで景気を回復させるとあったけれど、需要と関係あるというのはこういうことかと思いました。

5.実施してみての総括

  • 恥ずかしからず、役になりきって演ずる生徒が意外に多く、驚いた。講義形式の授業でないせいか、生徒たちも新鮮に感じているようであった。
  • 拡張的財政政策、緊縮的財政政策を説明する場合、劇を演じ終わった生徒を使ってインタビューしながら説明するのは効果的であると感じた。
  • 40人生徒がいた時、生徒全員参加させるための方法を模索している。50分完結授業とするなら、時間的に2幕とも2チームずつ演じさせるには時間的に無理がある。台詞を考える時間もあるので、初めから発表チームを決めてしまうと、発表しないチームが手持ち無沙汰になってしまう。この進め方が課題である。

報告者:京都市立西京高等学校・附属中学校磯部研二

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